松江地方裁判所 昭和48年(ワ)86号 判決 1976年5月24日
原告
上住ケイコ
ほか四名
被告
小村漠
ほか一名
主文
被告らは各自、原告上住ケイコに対し金二四四万三、九四三円、原告上住リンに対し金二五万円および右各金員に対する昭和四八年一一月三〇日以降支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告上住ケイコ、原告上住リンのその余の請求および原告上住修二、原告上住康司、原告上住美奈子の請求全部をいずれも棄却する。
訴訟費用中、原告上住ケイコ、同上住リンと被告らの間に生じた分はこれを三分し、その二を同原告らの、その余を被告らの各負担とし、原告上住修二、同上住康司、同上住美奈子と被告らとの間に生じた分は同原告らの負担とする。
この判決は第一項に限りかりに執行できる。
事実
第一請求の趣旨
被告両名は、各自
(一) 原告上住ケイコに対し金七五〇万円
(二) 原告上住修二に対し金七〇万円
(三) 原告上住康司に対し金七〇万円
(四) 原告上住美奈子に対し金七〇万円
(五) 原告上住リンに対し金四〇万円
および右各金員に対する昭和四八年一一月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
第一項は仮に執行できる。
第二被告両名の答弁
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
第三請求原因
一 事故の発生
(一) 日時 昭和四七年三月二日午後六時すぎころ
(二) 場所 島根県邇摩郡温泉津町福波大字福光石見交通福光本町バス停留所付近国道
(三) 加害車 軽乗用自動車(八島根も三九三一)
運転者 被告小村漠(以下被告小村という)
(四) 態様 被告小村が加害車を運転し、江津市方面から温泉津町方面に向かい進行中、前方を歩行中の訴外上住藤次郎(以下訴外藤次郎という)に加害車前部を衝突させた。
(五) 結果 訴外藤次郎は頭部外傷、左鎖骨々折、左下腿裂創、前額部胸部両下腿各打撲擦過傷等の傷害を負い、直ちに島根県済生会江津病院に入院したが、昭和四七年三月二五日右傷害のため死亡した。
二 責任原因
(一) 被告小村は、加害車の保有者であるから、自賠法三条による責任がある。
(二) 被告株式会社八雲建設コンサルタント(以下被告会社という)は、被告小村の使用者であるところ、本件事故は、被告小村が被告会社の作業現場たる江津市浅利所在のボーリング作業場から加害車に他の作業員を同乗させて温泉津町の被告会社作業員宿舎まで帰る途中、被告小村の前方不注視の過失により発生したものである。
被告小村は、右作業現場の責任者であつて、本件加害車を、常時、自己および部下の作業員らの宿舎と現場の通勤に提供使用してきたのみならず、業務連絡、部品調達等のため、現場と被告会社松江支社間の往復にも利用してきたが、被告会社は右事情を熟知のうえ、これを許容してきたものであるから(被告会社が被告小村らに支給していた交通費等は、実質的にはガソリン代に相当する。)、本件加害車を日常的ないし継続的に業務活動のなかに組込み、運行の用に供してきたものというべきである。仮りに被告会社が本件加害車の使用を積極的に許容していなかつたとしても、本件現場は通勤、業務連絡、部品購入等その作業上自動車の使用が不可欠であつたのに被告会社はその保有車を配車せず、その予定すらしていなかつたもので、客観的、外形的にみて、本件加害車を運行の用に供してきたものということができる。
よつて、被告会社には、民法七一五条および自賠法三条による責任がある。
三 損害
(一) 訴外藤次郎の損害
同訴外人は、本件事故当時四五歳で、温泉津町所在の有限会社小林造船所に木工として勤務し、昭和四六年度の年収が六九万五、二五五円であつた。
(1) 休業補償 四万三、八一六円
同訴外人は、受傷後の昭和四七年三月三日から同月二五日まで二三日間入院し、休業した。
算式 六九万五、三五五円×三六五分の一×二三日=四万三、八一六円
(2) 逸失利益 七〇九万六、七九三円
同訴外人の就労可能年数は二二年、新ホフマン係数一四・五八〇、生活費年収の一〇分の三として新ホフマン式計算方法(係数一四・五八〇)により中間利息を控除して現価を計算すると以下のとおりとなる。
算式 六九万五、三五五円×一〇分の七×一四・五八〇=七〇九万六、七九三円
(3) 入院中の慰藉料 一〇万円
(二) 原告上住ケイコ(以下原告ケイコという。)の損害
(1) 治療費 七、四九〇円
島根県済生会江津病院における訴外藤次郎の治療費のうち、原告ケイコは右金員を支出した。
(2) 付添看護費用 二万四、〇〇〇円
訴外藤次郎の入院二四日間、原告ケイコは付添看護に従事したがその費用は一日一、〇〇〇円に相当する。
(3) 葬儀費用 三〇万円
原告ケイコは右費用を支出した。
(4) 慰藉料 六〇〇万円
原告ケイコは訴外藤次郎の妻であり、一家の支柱たる同人を失い、子供三人と亡夫の母を抱えて生活を維持しなければならなくなつた。
(5) 弁護士費用 五〇万円
原告ケイコは弁護士樋口文男に本件訴訟を委任し、着手金二〇万円を支払い、かつ勝訴のとき報酬三〇万円を支払う旨約した。
(三) 原告修二、同康司、同美奈子、同リンの各慰藉料 各五〇万円
四 相続
原告ケイコは訴外藤次郎の妻、同修二、同康司、同美奈子は子同リンは養母であるところ、リンを除くその余の原告らは、同訴外人の前記三(一)(1)、(2)、(3)の各損害賠償請求権を民法所定の相続分に応じて相続した。
よつて、右金額に前記三(二)、(三)の原告ら固有の損害額を加えると、原告ケイコにつき九二四万五、〇二六円、同修二、同康司、同美奈子につき各二一〇万九、〇二四円となる。
五 損害の填補等
原告らは、被告らから合計二四万一、七一〇円を、自賠責保険から四七四万四、〇〇〇円を、各受領したので、これを原告リンを除くその余の原告らの各相続分に応じて按分充当した。
そうすると、結局原告らの受くべき損害賠償額は、原告ケイコにつき七五八万三、一二三円、同修二、同康司、同美奈子につき各一〇〇万一、〇八九円、同リンにつき五〇万円となる。
六 よつて各自被告両名に対し、原告ケイコは、損害額七五八万三、一二三円のうち七五〇万円、同修二、同康司、同美奈子は、それぞれ、損害額一〇〇万一、〇八九円のうち七〇万円、同リンは損害額五〇万円のうち四〇万円および右各金員に対する訴状送達の翌日たる昭和四八年一一月三〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第四請求原因事実に対する被告らの答弁
(被告小村)
一 請求原因一(一)ないし(四)および(五)のうち、訴外藤次郎死亡の点は認め、その余は不知。
二(一) 同二(一)のうち責任の点は争い、その余は認める。
(二) 同二(二)のうち、被告小村の過失の点は争う。
三 同三は全て争う。
四 同四のうち身分関係は認める。
五 同五損害の填補の事実は認める。但し、被告小村が任意弁済した金額は、二四万一、七四五円である。賠償責任額の点は争う。
六 同六は争う。
(被告会社)
一 請求原因一(一)ないし(四)および(五)のうち訴外藤次郎死亡の点は認め、その余は不知。
二(一) 同二(一)は争う。
(二) 同二(二)のうち、被告会社が被告小村の使用者であること、本件事故が、被告小村において、被告会社の作業現場から加害車に他の作業員数名を乗せて宿舎に帰る途中惹起されたものであることは認め、その余の事実は否認する。被告会社は、本件事故当時一五・六台の保有車を備え付けており、従業員が作業現場等へ出張する際には、右保有車を利用させるか、もしくはもよりの交通機関を利用させてその実費を支給する扱いとし、従業員の個人車を業務用に利用することを禁止してきた。被告小村は本件出張に際して、右保有者の使用方を求めず、日報にも現場、宿舎間の通勤に一般交通機関を利用したものとしてその交通費を計上記載し、かつその支給を受けていたものであり、被告会社としても本件現場はさして交通不便な場所ではなく、作業の遂行自体にも特に車両を必要とする事情もなかつたため、従来の例にならい、本件出張にあたり、その保有車を割り当てることを考えなかつたもので、被告小村が本件作業現場と宿舎間の往復に加害車を利用していることなど全く知らなかつた。また加害車は、本件事故当時無保険車であつた。従つて被告会社には加害車につき運行支配、運行利益はないから自賠法三条の責任を問ういわれはなく、また業務執行性を有しないから民法七一五条の責任も負わない。仮りに被告会社が右利用の事実を知つていたとしても、その結論に影響はない。
三 同三は全て争う。
四 同四のうち身分関係は認める。
五 同五のうち、自賠責保険からの受領の事実は認めるが、その金額は不知、その余は争う。
六 同六は争う。
第五被告らの抗弁
一 免責(自賠法三条但書)の主張
本件事故現場の国道九号線は、全幅員七・五五メートルで、歩道の施設はないものの、幅員五〇センチメートルの外側線が存在し、歩行者はその外側を歩行すべきであつた。ところが、被害者たる訴外藤次郎は、訴外大住清太郎と共に飲酒酩酊のうえ右北側車道中央付近を歩行していたものである。しかも事故当時は夜間で見とおしも悪く、対向車のライトでげん惑され歩行者の発見は極めて困難であつた。加えて、本件加害車の前照灯による明射可能距離は一〇・八〇メートルであつたから、右のような状態の被害者を右前照灯により発見したとしても、これとの衝突を避けるためには、時速約二〇キロメートル以下で走行しなければならないこととなるが、右のような低速度で国道上を走行することを運転者に期待することは不可能である。従つて、本件事故は訴外亡藤次郎の一方的過失に起因するもので、被告小村および被告会社に、運行上の過失はない。
加害車には、構造上の欠陥、機能上の障害もなかつた。
二 過失相殺の主張
かりに、被告らになんらかの責任があつたとしても、訴外藤次郎には前記のような重大な過失があるから、これを斟酌すべきである。
第六抗弁事実に対する原告らの答弁
一 抗弁一は争う。
二 同二は否認する。
第七立証〔略〕
理由
一 請求原因一(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いない甲第一五号証の二によれば、同(五)の事実(但し、訴外藤次郎死亡の点は当事者間に争いない。)を認め得る。
二 被告小村が加害車の所有者であることは当事者間に争いがない。
そこで、被告会社の責任原因につき判断するに、いずれも成立に争いない甲第一一号証、乙ロ第一号証、第二号証、第三号証の一ないし三、第四号証の一ないし三、第五号証の一ないし四六、被告会社代表者尋問の結果により真正に成立したと認められる乙ロ第六号証の一ないし三、第七号証の一、第八号証の一、二、第一〇号証、第一一号証の一、二および証人池淵信安の証言ならびに被告小村漠本人、被告会社代表者の各尋問結果(但しいずれも後記措信しない部分を除く)を総合すると、以下のとおり認められる。
(一) 被告会社は道路の設計、測量、地質、水源調査を業とする会社で、本社のほか、松江支社、松山支社等を有し、本件事故発生時たる昭和四七年三月当時、右松江支社においては、地質調査や測量を中心とする外勤に従事する職員約三六名、内勤に従事する職員約三五名ほか女子一六名を擁し、被告小村は右松江支社の雇員として調査課に所属し、右外勤に従事していたこと、
(二) 松江支社では、本件事故当時、前示業務用として乗用車三台、トラツク三台、バン、軽等の作業用自動車一二台を保有していたところ、同支社の従業員らが業務上の出張のため右自動車を必要とする場合には、出張を命じられた者において現業出張届を作成し、これに作業予定内容等のほか被告会社保有車を利用する旨記入し、上司の決裁を得たうえ配車を受けることとなつており、右保有車を利用しない場合には右届出書に交通費の実費概算額を記入し、前同様の決裁を経てその概算払(仮払)を受けたうえ、現場に出張してその都度業務外業日報を作成し、これに要した交通費(例えば現場と支社との業務連絡等のため、もしくは泊付き出張の場合は現場と宿舎間の往復のための、各交通費)の実費額を計上記載して報告するという扱いを形式上取つてきたが、被告会社としてはこのような場合、右会社保有車の利用の要否につき格別の調査検討もせず、専ら出張者の届出どおり決裁を与え、もつて実質上出張者の選択に任せてきたこと、
(三) 松江支社においては、従来日帰り出張の場合には右保有車を利用することが多かつたものの、出張作業現場が遠方で、かつ日程も長期に亘る場合にはこれを利用することは殆どなく、ことに前示調査課においては、被告小村をはじめ外勤者の多くは被告会社に対しては交通費の請求をしてその支給を受けながら実際には便宜上個人のマイカーを利用して出張するという形をとることが多かつたこと、
(四) 被告会社は、本件事故以前から幹部会議等において自動車取扱いについての協議がなされ、マイカーの社用利用や任意保険未加入車の社内乗入れ等を禁止する旨の申し合わせがなされてきたが、必ずしもこれが徹底しないうらみがあり、殊に被告小村の所属する松江支社調査課では、前示出張に一次的な決裁権を持つ係長らは、その職員が前示の如き形態のもとにマイカーを出張業務に利用していることを知りながらこれを放置していたとみうること、
(五) 被告小村は、被告会社から江津市浅利地内の土地の水源調査のため班長として出張を命じられ、他の作業員数名と共に昭和四七年二月一六日から同所に赴き、邇摩郡温泉津町大字小浜地内の旅館に宿舎をとり、作業に入つたこと、右出張作業に際し、被告小村は、前示のような従来からの慣例どおり被告会社松江支社からの往路は勿論、前記作業現場から宿舎への往復その他作業上必要な部品等の補充調達に際しては他の作業員ともども全て加害車を利用していたが、被告会社に対しては、最寄りの交通機関を利用したものとしてその実費を業務外業日報に計上記載してその支給を受けていたこと、なお右作業現場は支社所在地の松江市からも離れ、交通の便も必ずしも良好とはいえず、円滑な作業遂行のためには自動車の利用もそれなりに便宜であつたというべきところ、被告小村において被告会社保有車の提供を申し出なかつたのは、これを不能とする格別の事由があつたからではなく、単に、従来からのマイカー利用という事実上の慣行に従つたまでにすぎなかつたこと、本件事故は、被告小村が加害車に他の作業員を乗せ、右作業現場から宿舎に帰る途中発生したものであること(但し、この事実は当事者間に争いがない。)、加害車は、本件事故当時、強制保険未加入であつたこと、
以上のとおり認められ、証人池淵信安の証言ならびに被告会社代表者および被告本人の各尋問結果中右認定に反する部分はにわかに措信できず、他にこれを左右すべき的確な証拠はない。
以上認定事実にもとづき考察するに、被告会社松江支社における外勤職員らの業務ことに遠隔地の現場への出張業務のため、自動車を利用することは必要不可欠とまではいえないものの、円滑かつ能率的業務遂行上便宜であつたというべく、被告小村ら同支社調査課に所属する外勤職員らの多くは、右見地から、従来遠隔地への出張作業に際しては殆どの場合本件加害車などマイカーを利用してきたものであつて、本件出張における加害車の利用も単に偶発的なものではないから、被告会社が加害車による運行利益を得ていたことは否定できないと認められる。また、右の如く、マイカーが業務のため、頻繁に利用されてきた実態に加え、被告小村の所属する調査課の上司たる係長が、右実態を了知しながらこれを黙認してきたとみられること、その他前示のような被告会社松江支社の規模等を合わせ考えると、同支社における事実上包括的指揮監督を及ぼし得る立場にあつたと考えられる次長においても、右事実を黙認放置していたと推認して妨げなく、このことは被告会社におけるそれと同視しうるから、被告会社が本件加害車の運行支配を取得していたことも否定できないと認められる。
被告会社が従来社用のためのマイカー利用を禁止し、また外勤業務遂行を確保するに足りる保有車を松江支社に配置し、これを利用せず、もよりの交通機関を利用した場合に限つて交通費を支給する建前を形式上とつてきたことは、いずれも前示認定のとおりであるが、右マイカー利用禁止の建前は現実には徹底順守されておらず、また会社保有車利用の要否に関しても、従来被告会社において実質的判断にもとづく指示或は命令を与えたことは殆どなく、専ら出張する者の任意の選択に委ねてこれを放置してきたものであるから、これら事情に鑑みると、前記各事実も以上の結論を左右しないと理解される。他にこれを左右すべき証拠はない。
三 被告らは、自賠法三条但書の免責を主張するが、いずれも成立に争いない甲第二ないし第五号証、第六号証の一ないし四、第七号証、第八号証の一、二、第九ないし第一四号証、第一七、第一八号証、第二一号証および証人大住清太郎の証言ならびに被告小村漠本人尋問の結果によると、
(一) 本件現場は国道九号線上で、現場道路はコンクリート舗装され、全幅員七・五五メートルで、その両側には路面最端から各〇・五メートルの位置に外側線がそれぞれ敷かれていたが、歩車道の区別はなく、事故当時、付近に視界を妨げる障害物はなかつたものの、街路灯、人家等もなく暗かつたこと、
(二) 訴外藤次郎は勤務を終え、同僚の訴外大住清太郎とそれぞれ清酒二ないし三合位を飲酒し、酩酊のうえ、右国道上を大田市方面から江津市方面に向け、右藤次郎においてセンターラインと前記外側線のほぼ中間辺りを、訴外大住がその右側を、それぞれ歩行中であつたこと、なお、同人らにおいて、障害物の存在等、外側線を超えての歩行を余儀なくさせる特段の情況はなかつたこと、
(三) 被告小村は、江津市方面から大田市方面に向け約七〇キロメートル毎時の速度で進行中、対向車の前照灯によるげん惑を避けるため、進路左端に視線を移して進行し、前方約九メートルに至つて前記訴外藤次郎を認め、急制動をかける間もなく同人に加害車左前部を衝突せしめたこと、
(四) 加害車は、事故当時バツテリーがあがり、発進時も他車にけん引してもらつてエンジンを始動させたものであり、かつ走行することによつてライトが灯く状態で、その明りも暗かつたこと、
以上の各事実が認められ、右事実によれば、訴外藤次郎に、酩酊のうえセンターラインと外側線の中央付近を歩行した重大な過失のあつたことはいうまでもないが被告小村に整備不良車運転、速度違反、前方不注視の過失があつたことも明らかであり、かつ本件全証拠によるも、右被告小村の過失と本件事故発生との間に、因果関係がないことを認めるに足りない。
よつて、免責の主張はその余を判断するまでもなく失当であつて、採用できない。
そうすると、被告らは自賠法三条にもとづき、後記損害を賠償すべき義務を負うこととなる。
四 原告ら主張の損害額につき判断する。
(一) 訴外藤次郎の損害
いずれも成立に争いない甲第一四号証、第二三号証および原告上住ケイコ本人尋問の結果によれば、訴外藤次郎は、本件事故当時有限会社小林造船所に木工として勤務し、年収六九万五、三五五円の給与を得、妻ケイコも工員として稼働していたが、長男修二(一三歳)、次男康司(八歳)、長女美奈子(五歳)、ケイコの実母(七八歳)ら四名の扶養家族を有していたこと、前記甲第一五号証の二によれば、訴外藤次郎は本件事故発生時から昭和四七年三月二五日死亡までの二三日間済生会江津病院に入院し、死亡当時四五歳であつたことがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。
(1) 休業損害 四万三、八一六円
前段認定事実によれば、事故後死亡までの間右に相当する休業損害を蒙つたと認められる。
算式 六九万五、三五五円×三六五分の一×二三日=四万三、八一六円
(2) 逸失利益 七〇九万六、七九三円
前段認定の事実に照らし、訴外藤次郎は、本件事故に遭わなければ、その後就労可能年数六七歳に達するまでの二二年間三割の生活費を控除した純収入を得ていたとみてよく、この逸失利益の総額からホフマン式計算方法により年毎に五分の割合による中間利息を控除して現価を求めると、以下のとおりとなる。
算式 六九万五、三五五円×一〇分の七×一四・五八〇=七〇九万六、七九三円
(3) 入院中の慰藉料
訴外藤次郎が生前傷害による慰藉料請求権を取得したこと自体は否定できないが、右は帰属上、行使上一身専属性を有するのを原則とし、右一身専属性から解放されたと認むべき特段の事情ない限り、相続性を否定すべきものと解すべく、本件全証拠によるも右特段の事情を認めるに足りない。よつて、この点に関する原告らの主張は採用できない。
(二) 原告ケイコの積極損害
(1) 治療費 七、四九〇円
成立に争いない甲第二五号証および原告ケイコ本人尋問の結果によれば、同人は訴外藤次郎の本件事故による受傷のための治療費として右金員を出捐したことが認められる。
右認定に反する証拠はない。
(2) 付添費 二万四、〇〇〇円
原告ケイコ本人尋問の結果によれば、同人は訴外藤次郎の前示入院期間中看護付添に従事したことは明らかであり、右期間に対応する付添費は一日当り一、〇〇〇円をもつて相当と認める。
(3) 葬儀費 三〇万円
原告ケイコ本人尋問結果によれば、同人において訴外藤次郎の葬儀を施行したことは明らかであり、前示のような同人の職業、年齢、家族構成等に照し、原告ケイコの求める葬儀費は右金額をもつて相当と認める。
(三) 原告ら固有の慰藉料
原告らは、本件事故により一家の支柱であつた訴外藤次郎を失つたものでその精神的苦痛は甚大であり、同人との身分関係を考慮すると、その慰藉料は、原告ケイコにつき五〇〇万円、原告修二、同康司、同美奈子、同リンにつき各五〇万円をもつて相当と認める。
(四) 相続
原告ケイコが訴外藤次郎の妻、同修二、同康司、同美奈子が同訴外人の子であることは当事者間に争いがない。よつて、同訴外人の死亡により、前記(一)(1)、(2)の請求権につき、原告ケイコは三分の一(二三八万〇、二〇三円)、同修二、同康司、同美奈子は各九分の二宛(各一五八万六、八〇二円宛)相続により承継取得したこととなる。
よつて、右金額に、前示原告ら固有の損害額を加えると、原告ケイコにつき七七一万一、六九三円、同修二、同康司、同美奈子につき各二〇八万六、八〇二円となる。
(五) 過失相殺
前記三認定のとおり、訴外藤次郎にも本件事故発生につき過失があつたものであり、その割合は五割をもつて相当とする。
よつて、原告ケイコ、同修二、同康司、同美奈子につき前記(四)の、同リンにつき前記(三)の、各金員から五割の過失相殺分を控除すると、原告らの受くべき損害賠償額は、原告ケイコにつき、三八五万五、八四六円(円未満切捨)、同修二、同康司、同美奈子につき各一〇四万三、四〇一円、同リンにつき二五万円となる。
(六) 損害の填補等
原告らが被告らから合計二四万一、七一〇円を、自賠責保険から四七四万四、〇〇〇円を各受領し、これを原告ら相続分に応じて各損害額に按分充当したことは原告らにおいて自認しているところ、右以上に弁済がなされたことを認めるべき的確な証拠はない。
よつて、右填補金額を原告ケイコ、同修二、同康司、同美奈子の相続分に応じて按分すると、原告ケイコにつき、一六六万一、九〇三円(円未満切捨)、同修二、同康司、同美奈子につき各一一〇万七、九三五円(円未満切捨)となり、これを前記(五)の金員から控除すると、原告らの受くべき損害賠償額は、原告ケイコにつき二一九万三、九四三円、同修二、同康司、同美奈子につき、いずれも全額填補ずみとなる。
(七) 弁護士費用
原告ケイコ本人尋問の結果によれば、同人は弁護士たる原告代理人に本件訴訟提起と追行を委任し、手数料二〇万円および報酬三〇万円の各支払を約したことが認められ、この事実と、前示認定のとおり原告ケイコが被告らに対し二一九万三、九四三円(原告リンの分を含めると、総額二四四万三、九四三円)を請求し得ることに照らし、原告ケイコの弁護士費用として、二五万円をもつて、本件事故と相当因果関係ある損害と認めるのを相当とする。
五 結論
以上の次第で、結局被告両名は各自原告ケイコに対し、前記四(六)、(七)の合計二四四万三、九四三円、同リンに対し前記四(五)の二五万円およびこれらに対する本訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四八年一一月三〇日以降支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるものというべく、原告ケイコ、同リンの本訴請求は右の限度で正当としてこれを認容し、その余は棄却し、また原告修二、同康司、同美奈子の請求は理由がないから全部棄却することとし、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 那須彰)